ISO9001固有の要求事項「組織の知識」とは何か?ポイントを徹底解説

ISO9001固有の要求事項「組織の知識」とは何か? ISO9001

ISO9001の要求事項は、制改訂のたびにその内容や表現などが変わり、その対応に苦慮されている方も多いのではないでしょうか。2015年版の規格では新規に5つの要求事項が追加され、手順書類の整備や教育など、理解して運用するために多くの時間を要したことでしょう。

この記事ではその5つの要求事項のうち、解釈を誤りがちな「組織の知識」に焦点をあて、以下の項目を中心にしてポイントを徹底的に解説します。

  • ISO9001の要求事項の変遷
  • 組織の知識の具体的な内容
  • 組織の知識の効果的な管理方法
  • ナレッジマネジメントシステムへの展開

組織の知識は効果的に運用することによって、組織のパフォーマンス向上につなげることができます。この記事では、組織の知識を品質マネジメントシステムのなかで活用している方や、活用方法に悩んでいる方などに是非参考にしていただきたい内容をまとめています。

ISO9001の要求事項の変遷

ISO9001は1987年に初版が制定され、30年以上が経過しています。その間、1994年、2000年、2008年、2015年の4回の改訂を行なっています。規格の表題も1994年版までは「品質システム-設計・開発、製造、据え付けおよび付帯サービスにおける品質保証モデル」でしたが、2000年版以降は「品質マネジメントシステム-要求事項」になっています。内容的には2000年版と2015年版が区切りになって、次の3つの世代に大きく分けられ、要求事項も変遷しています。

第一世代:1987年版~1994年版

  • 規定された手順への適合を要求
  • 文書と記録を重視

第二世代:2000年版~2008年版

  • 顧客満足を考慮した品質保証による品質マネジメントシステムを要求
  • プロセスアプローチを推奨、継続的改善による結果を重視

第三世代:2015年版~

  • 組織の状況に合致した品質マネジメントシステムの構築を要求
  • リスクと機会への取組みを導入

要求事項については、第一世代では「手順を定めること」、「文書化すること」などのように具体的な指図型のものがほとんどでしたが、第二世代以降は組織の個別の状況に応じて組織の裁量で定められるような一般的、抽象的な要求事項が多くなりました。

要求事項が一般的、抽象的になったことで、ISO9001を導入・運用する側としては規格の本来の意図を確実に捉えてシステムにどう反映させるか、大いに悩み、考えなければなりません。規格の意図と若干外れて要求事項を運用してしまっている組織もあることでしょう。審査機関による定期審査の機会などに修正の必要性などを確認しましょう。

なお、規格の要求事項については、関連記事としてISO9001の要求事項とは?規格の一覧とポイントを徹底解説もご覧ください。

ISO9001:2015年版で新規に追加された要求事項

ISO9001:2015年版では、新規に以下5つの要求事項が追加されています。抽象的な表現の要求事項もありますが、具体的にはどのような要求事項なのか、条項順に見てみましょう。

【4.1組織及びその状況の理解】

組織の能力に影響を与える外部及び内部の課題を明確にし、その課題に関する情報を監視してレビューすることが求められています。これは規格全体の要求事項の前提になる重要な要求事項です。

外部課題としては法令や業界動向、環境的影響、内部課題としては人的資源、設備環境、製品開発力などが挙げられるでしょう。

【4.2利害関係者のニーズ及び期待の理解】

品質マネジメントシステムに密接に関連する利害関係者とその利害関係者の要求事項を明確にし、それらに関する情報を監視してレビューすることが求められています。

利害関係者としては顧客や供給者、従業員、行政、近隣住民、地域社会などが挙げられるでしょう。

【6.1リスク及び機会への取組み】

  • リスク:目的に対するネガティブな影響。製品不具合、供給者倒産、災害など。
  • 機 会:目的に対するポジティブな影響。新製品発売、新市場開拓、新技術採用、組織に有利な市場ニーズの変化、法令の施行など。

規格全体の要求事項の前提として、リスクと機会を特定し、どのように取組むかを決定すること、その決定を計画的に実施し、その結果の有効性を評価することが求められています。

リスクと機会への取組みについては、関連記事としてISO9001活動でのリスクと機会への取り組みとは?ポイントを解説もご覧ください。

【7.1.6組織の知識】

次項以降で徹底解説しますので、ここでは省略します。

【8.5.6変更の管理】

製造やサービス提供に関する変更について、レビューして管理することが求められています。変更の内容や変更による影響、変更を許可した人、レビューによって生じた処置などの文書化も求められています。

変更の例としては、担当者交代や利用設備変更、作業手順の変更などが挙げられるでしょう。

規格本文が抽象的な表現なので、要求事項を具現化する時に解釈を誤らないように注意しましょう。以降は2015年版で新規に追加された要求事項のなかで、解釈を誤りがちな「組織の知識」について解説します。

新規の要求事項「組織の知識」とは何か?

2015年版で新規に追加された要求事項「組織の知識」は、規格策定の委員会で日本が提案した要求事項です。しかし、国内のISO認証審査の場において、組織の知識に関わる仕組みや活動が十分とはいえない事例が少なくないと言われています。規格の解釈に問題があるのでしょうか。

規格での「組織の知識」は

規格の本文は次のようになっています。

7.1.6 組織の知識

組織は、プロセスの運用に必要な知識、並びに、製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない。

この知識を維持し、必要な範囲で利用できる状態にしなければならない。

変化するニーズと傾向に取り組む場合、組織は、現在の知識を考慮し、必要な追加の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない。

  • 注記1 組織の知識は、組織に固有な知識であり、それは一般的に経験によって得られる。それは、組織の目標を達成するために使用し、共有する情報である。
  • 注記2 組織の知識は、次の事項に基づいたものであり得る。
    • a) 内部情報源(例えば、知的財産、経験から得た知識、失敗から学んだ教訓及び成功プロジェクト、文書化していない知識及び経験の取得及び共有、プロセス、製品及びサービスにおける改善の結果)
    • b) 外部情報源(例えば、標準、学会、会議、顧客又は外部の提供者からの知識収集)

組織の知識は、一般的には経験によって得られる組織に固有の知識で、プロセスの運用や製品、サービスの適合に必要な知識、つまり組織の目標を達成するために使用し共有する情報であるとしています。必要な知識を明確にすることや、この知識を維持し利用できる状態にすることなどの管理が求められ、具体的な内容が、内部情報源と外部情報源とに分けて例示されています。

組織の知識の具体例は

規格本文には組織の知識が例示されていますが、具体的にどのようなものまで含まれるのか明確にはされていません。ただ、「プロセスの運用と製品・サービスの適合のために必要な」知識とされ、かつ「組織固有のもので経験から得られるもの」とされていることから、組織の知識としては次のようなものが挙げられるでしょう。

  • 組織の業種などに固有する技術的あるいは専門的な知識
  • 過去の成功や失敗事例から得られた教訓的な知識、ノウハウ
  • 組織の個々人が経験的に持っているワザやコツ・カンなど

具体的には次のようなものが組織の知識の例と言えるでしょう。

内部情報源:業務手順・要領書、作業手順・要領書、業務基準・標準書、技術基準・標準書、PFD(プロセス・フロー・ダイアグラム)、図面、測定データ、新技術の開発記録、技術マニュアル、製品説明書、工業所有権などの知的財産、QC工程表(作業ポイント)、失敗事例集、過去トラ(過去のトラブル集)、クレーム報告書、不適合報告書、是正処置書、個々人の所有技術・ワザ・コツ・カン、など

外部情報源:法律書、行政文書、規格書、学術論文、学会誌、専門図書、業界誌、講習会資料、設備図面、設備取扱説明書、設備点検記録、購入品仕様書、など

知識(knowledge:ナレッジ)には文書化された「形式知」と、個々人の所有技術・ワザ・コツ・カンのような文書化されにくい「暗黙知」の二つがあります。組織の知識はプロセスの効果的な運用や適合した製品・サービスの提供という目的のために活用できるようにしなければなりません。そのために組織の知識を管理しなければなりませんが、暗黙知をどのように管理するかも難しいテーマです。

「組織の知識」に求められる管理は

ISO9001が組織の知識に求めている管理は次の3点です。

  1. 必要な知識を明確にすること。
  2. その知識を維持し、利用できる状態にすること。
  3. 追加の知識や更新情報を得る方法、アクセスする方法を決定すること。

それぞれ、どのようなことを考慮して管理すれば良いのでしょうか。

①必要な知識を明確にする

前項で例として挙げた内部情報源、外部情報源などの知識になりますが、組織内で継承すべき知識、守るべき知恵、伝承すべき技術などに分けて整理すると良いでしょう。特に個々人のワザ・コツなどの暗黙知は、組織として継承し管理すべき知識として明確にしておくことが必要です。

②知識を維持し、利用できる状態にする

必要な知識をデータベース化して必要な部門で共有化するのが良いでしょう。比較的簡単に処理するにはExcelなどの表計算ソフトが便利です。その知識のポイントをキーワード化して入力しておくと検索が容易になります。文書などの情報データを呼び出せるようにリンク付けしておくと知識を有効に活用することができます。入力には大変な労力を必要としますが、少しずつでも進めることをおすすめします。

暗黙知を文書化するのは難しいかもしれません。写真や動画で記録して教育資料として管理するのも良いでしょう。ベテラン社員を講師として教育・訓練の場を設けている企業も多く見受けられます。

③追加の知識・情報などを得る方法を決定する

継続的な実施とデータベースの日々の更新が必要です。内部情報源のリソースは明らかな場合が多いでしょうが、外部情報源については入手先、リンク先などを明示して定期的に情報を収集するなどのルールを決めておく必要があるでしょう。

組織の知識の管理で重要なことは、知識をプロセスの効果的な運用や適合した製品・サービスの提供という目的のために活用できるようにすることです。そのためには、必要な知識を伝承・獲得していくシステムを構築することが不可欠になります。

ナレッジマネジメントシステムISO30401への展開

組織の知識はISO9001:2015年版で新規に追加された要求事項ですが、その後2018年にISO30401(ナレッジマネジメントシステム-要求事項)が制定されました。ナレッジ(knowledge:知識)に関するマネジメントシステム規格で、ナレッジは人的または組織的資産と定義され、経験、ノウハウ、洞察なども含まれています。

ナレッジマネジメントを強化することによって、市場における競争の差別化や優位性を生み出すことができます。また組織内では専門能力開発の機会が得られ、ベテランが退職した時などの知識ロスのリスクを防止することなどができます。

規格の構成はISO9001やISO14001などの他のマネジメントシステム規格と同様で、ISO9001で採用した組織の知識を含むナレッジをさらに詳細かつ明解にマネジメントシステム規格に展開したものです。まだJIS化されていなく認証規格への動きもありませんが、組織の知識を活用・運用するうえで参考になる規格でしょう。

まとめ

ISO9001:2015年版では新規に5つの要求事項が追加されましたが、そのうちの一つが「組織の知識」です。組織の知識には、組織固有の技術的・専門的知識や成功例・失敗例から得られる教訓的な知識、ノウハウなどの他、個々人が経験的に持っているワザやコツ・カンなどの暗黙知と呼ばれるものも含まれます。

これらの組織の知識を有効に活用することで、組織のプロセスの効果的な運用や適合した製品・サービスの提供という組織の目的・目標を達成することができます。組織の知識の管理には、文書化されたもののデータベース化や文書化されていない暗黙知を映像記録化するなどの工夫が必要です。もちろん教育・訓練などによる知識の継承も重要です。

組織の知識を有効に活用・管理して、確実な組織のパフォーマンス向上につなげましょう。ISO9001を取得して活動・運用されている方も、組織の知識のあり方を今一度確認、見直してみてはいかがでしょうか。見落としている組織の知識があるかもしれませんから。

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この記事を書いたライター
hikaruta

ISO9001:94年版での認証取得に関わって以来、ISO14001や医療機器品質のISO13485の認証取得・運用に深く携わり、ISOに翻弄、鍛えられたビジネスライフを経験。一線を退き、反省なども込めてISOを見つめ直しています。

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